相続税はいくらまで無税かを法定相続人の人数別に解説。基礎控除の計算例や生命保険の非課税枠、税額ゼロでも申告が必要なケースまで整理します。
「親の遺産に相続税はかかるのだろうか」
親の年齢が気になり始めると、多くの方がこの疑問にぶつかります。実は、相続税がかかるのは亡くなった方の約10人に1人です。つまり、大半の家庭では相続税はかかりません。
ただし、その「ライン」は家族の人数で変わります。さらに、特例を使って税額がゼロになる場合でも、申告だけは必要になることがあります。
本記事では、国税庁の公表資料をもとに、相続税がいくらまで無税なのかを人数別に整理しました。専門知識がなくても、ご自分の家族のケースを短時間で判断できるようにまとめています。
相続税は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」までなら無税

相続税には「基礎控除」という非課税の枠があります。
基礎控除とは、簡単に言えば「遺産がこの金額までなら税金をかけません」というラインのことです。計算式は国税庁のタックスアンサー(No.4152)で定められています。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
借金や葬儀費用を差し引いた正味の遺産額がこの金額以下なら、相続税はかからず、原則として申告も不要です。
法定相続人の人数別に見る非課税ライン
法定相続人とは、民法で決められた「遺産を受け取る権利がある家族」のことです。配偶者は必ず含まれ、そこに子ども(いなければ親、さらにいなければ兄弟姉妹)が加わります。
※法定相続人の数ごとの基礎控除額(非課税ライン)
たとえば「配偶者と子2人」なら法定相続人は3人なので、4,800万円までが無税です。
よくある誤解:基礎控除は「1人あたり」ではない
意外と多いのが、「子ども1人につき3,600万円まで非課税」という勘違いです。
基礎控除は相続人ごとに使えるものではなく、亡くなった方の遺産全体から1回だけ差し引きます。子2人なら「3,600万円×2」ではなく、4,200万円が遺産全体の非課税ラインです。
法定相続人の数え方で注意したい2つのルール
1つ目は、相続放棄をした人も人数に含めることです。家庭裁判所で相続を放棄した子どもがいても、基礎控除の計算では「放棄がなかったもの」として数えます。
2つ目は、養子の人数制限です。養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか人数に算入できません。節税目的で養子を増やしても、非課税ラインが際限なく広がるわけではないのです。
相続税がかかるのは約10人に1人という現実

「うちは資産家ではないから関係ない」と感じる方も多いかもしれません。
ただ、国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」を見ると、状況は少しずつ変わってきています。
令和6年に亡くなった約161万人のうち、相続税がかかったのは約16万7千人。課税割合は10.4%で、基礎控除が引き下げられた平成27年以降で最も高い水準です。税のしるべの報道によると、都道府県別では東京都が20.0%と突出しています。
遺産の中身も変化しています。同じ資料で相続財産の内訳を計算すると、次のようになります。
※国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」の相続財産の金額(合計24兆5,415億円)をもとに算出
預貯金や株式・投資信託の比率が高まっている点は、資産形成に取り組む方にとって見逃せません。新NISAで積み上げた資産も、当然ながら相続財産に含まれます。NISA口座の資産を相続するときの考え方もあわせて確認しておくと安心です。
📝 国税庁の資料を読んで意外だったこと
個人的に一番驚いたのは、相続税額がゼロなのに申告書を出した被相続人が、令和6年分だけで約4万人(39,755人)もいたことです。特例を使って税額をゼロにしたケースが多いと考えられます。「税金がかからない=何もしなくていい」とは限らないと、数字であらためて実感しました。
基礎控除を超えても無税になる4つの非課税枠・特例

遺産が基礎控除を少し超えても、すぐに諦める必要はありません。
次の制度を組み合わせることで、結果的に相続税がゼロになるケースは珍しくないからです。
| 制度 | 非課税・軽減の内容 | 申告 |
|---|---|---|
| 生命保険金・死亡退職金 | それぞれ500万円×法定相続人の数まで非課税 | 要件ではない |
| 小規模宅地等の特例 | 自宅の土地は330㎡まで評価額を80%減 | 必要 |
| 配偶者の税額軽減 | 1億6,000万円か法定相続分の多いほうまで非課税 | 必要 |
| 未成年者控除・障害者控除 | 年齢に応じて本人の税額から差し引く | 税額ゼロなら不要 |
① 生命保険金・死亡退職金の非課税枠
亡くなった方が保険料を負担していた死亡保険金を相続人が受け取る場合、「500万円×法定相続人の数」までは非課税です。死亡退職金にも、同じ金額の枠が別に用意されています。
子2人なら保険金1,000万円までが非課税で、これは基礎控除とは別枠です。預金のまま残すより、終身保険などに置き換えておくと、遺産の課税額を抑えやすくなります。保険の選び方は変額保険(バリアブルライフ)の仕組みと活用法でも詳しく解説しています。
② 小規模宅地等の特例
亡くなった方の自宅の土地を配偶者や同居の親族などが相続すると、330㎡までの部分は評価額を80%減らせます。評価額5,000万円の土地なら、1,000万円として計算できるわけです。
ただし、別居の子が相続する場合は「持ち家がない」などの厳しい条件があります。貸付用の土地は200㎡まで50%減と、用途によって内容も変わります。
③ 配偶者の税額軽減
配偶者が相続した遺産は、1億6,000万円か法定相続分の多いほうまで相続税がかかりません。
財務省の解説では、配偶者と子2人が遺産1億円を法定相続分どおりに分けた例が紹介されています。この場合、配偶者の税額は0円で、子どもは各157.5万円です。ただし配偶者に多く相続させすぎると、配偶者が亡くなったときの「二次相続」で子どもの税負担が重くなる点には注意が必要です。
④ 未成年者控除・障害者控除
相続人が18歳未満なら「18歳になるまでの年数×10万円」、障害のある方なら「85歳になるまでの年数×10万円(特別障害者は20万円)」を本人の税額から差し引けます。
税額ゼロでも申告が必要になるケースと期限

ここは見落とされがちな、でもとても大切なポイントです。
小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は、申告書を提出して初めて使える制度です。特例を使えば税額がゼロになるとしても、期限までに申告しなければ適用されません。
一方で、生命保険金の非課税枠を差し引いた結果、遺産が基礎控除以下になる場合は申告不要です。この違いを押さえておくと、判断がぐっと楽になります。
10か月は長いようで、戸籍集めや土地の評価、遺産分割の話し合いをしているとあっという間です。期限を過ぎると無申告加算税や延滞税がかかることもあります。
知っておきたい最近の制度改正

ここ数年、生前贈与と不動産評価のルールが続けて見直されています。
生前贈与の持ち戻し期間が3年から7年へ
亡くなる前に受けた暦年贈与は、相続財産に足し戻して計算します。国税庁(No.4161)によると、令和6年1月1日以後の贈与からこの期間が段階的に延びています。
| 亡くなった日 | 足し戻す贈与の期間 |
|---|---|
| 令和8年12月31日まで | 亡くなる前3年以内 |
| 令和9年1月1日〜令和12年12月31日 | 令和6年1月1日から亡くなった日まで |
| 令和13年1月1日以降 | 亡くなる前7年以内 |
延長された4年分の贈与は、合計100万円までは足し戻さなくてよいとされています。また、相続時精算課税制度にも年110万円の基礎控除ができ、この部分は相続時に加算されません。ただし、一度選ぶと暦年課税に戻れない点には気をつけたいところです。
令和8年度税制改正大綱で示された不動産評価の見直し
令和8年度税制改正大綱では、亡くなる前5年以内に購入・新築した一定の賃貸用不動産を、路線価ではなく実際の取引価額に近い金額で評価する方針が示されました。不動産小口化商品は、取得時期にかかわらず対象になる方向です。
適用は令和9年1月1日以後の相続などからとされていますが、対象の範囲など細かな取り扱いは国税庁の通達で定められるため、最新情報の確認が欠かせません。不動産クラウドファンディングのような小口の不動産投資を相続対策として考えている方は、商品の契約形態を一度確認しておくとよいでしょう。
税理士に相談したほうがよいタイミング

遺産が基礎控除を大きく下回り、預貯金が中心なら、ご家族だけで判断できることも多いはずです。
一方で、次のような場合は早めに相続税に詳しい税理士へ相談することをおすすめします。
- 遺産が基礎控除の金額に近く、土地や非上場株式など評価が難しい財産がある
- 小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使う予定がある
- 二次相続まで見据えて、遺産の分け方を考えたい
- 生前贈与や生命保険を使った対策を、親が元気なうちに始めたい
特に土地は、評価のしかたで金額が数百万円単位で変わることもあり、「ギリギリ基礎控除以下」という判断は危ういケースがあります。金や貴金属など現物資産をお持ちの場合は、金インゴットの分割による相続・贈与対策も参考になります。
💭 試算するときに私が最初に確認すること
相続税の話になると、つい財産の金額ばかりに目が向きがちです。でも個人的には、まず「法定相続人が誰で何人か」を固めることをおすすめしています。人数が1人違うだけで非課税ラインは600万円、保険金の非課税枠は500万円も変わります。前妻との子や養子の有無など、戸籍を見て初めて分かることもあるからです。
まとめ:まずは家族の人数から非課税ラインを確認しよう
相続税がいくらまで無税かは、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」でシンプルに判断できます。
配偶者と子2人なら4,800万円、子2人だけなら4,200万円が目安です。基礎控除を超えても、生命保険金の非課税枠や配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例によって税額がゼロになることは少なくありません。
大切なのは、税額がゼロでも申告が必要なケースがあると知っておくこと。親御さんが元気なうちに財産の全体像と家族構成を一緒に確認しておくだけでも、いざというときの負担は大きく変わるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断を行うものではありません。実際の申告にあたっては、税理士や所轄の税務署にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
法定相続人が1人以上いれば、基礎控除は最低でも3,600万円です。正味の遺産が3,000万円なら相続税はかからず、申告も原則不要です。ただし、亡くなる前の贈与の足し戻しや、評価の見直しで金額が増えないかは確認しておきましょう。
減りません。基礎控除の計算では、相続放棄がなかったものとして法定相続人の数を数えます。ただし、放棄した人が受け取った死亡保険金には、生命保険金の非課税枠が使えない点に注意が必要です。
非課税枠の適用自体に申告は必要ありません。保険金の非課税部分を除いた遺産の合計が基礎控除以下なら、申告は不要です。基礎控除を超える場合は、ほかの財産とあわせて申告します。
本当です。配偶者・子・親以外の人(兄弟姉妹や、代襲相続人でない孫養子など)が財産を取得すると、その人の相続税額が2割加算されます。基礎控除の計算方法そのものは同じです。
いったん法定相続分で分けたものとして申告・納税します。その際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておけば、分割がまとまった後に配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。