不動産投資で節税できる仕組みと税制改正後も効果が残る対策を徹底解説

「不動産投資は節税になります」という説明を、一度は耳にしたことがあるかもしれません。

この話は、半分は正しく、半分は注意が必要です。減価償却や損益通算を使えば、所得税や住民税が軽くなる場面はたしかにあります。ただ、その効果は一時的だったり、売却時に税金として戻ってきたりすることも少なくありません。

さらに相続税の分野では、令和8年度税制改正で「不動産を買えば評価額が下がる」という前提そのものが見直されました。

本記事では、節税の仕組みと最新の改正内容を整理し、いまも使える対策と効果が薄れた手法を分けてご紹介します。

不動産投資で所得税・住民税が軽くなる仕組み

不動産投資で所得税・住民税が軽くなる仕組み

家賃収入から必要経費を引いたものが「不動産所得」です。

不動産所得は給与所得などと合算して税額を計算する「総合課税」の対象です。そのため、不動産所得が赤字になると、給与から天引きされた所得税の一部が確定申告で戻り、翌年の住民税も下がります。

減価償却と構造別の法定耐用年数

節税の中心になるのが減価償却です。建物の購入代金を、法律で決められた年数(法定耐用年数)に分けて少しずつ経費にする仕組みを指します。

実際にはお金が出ていかないのに経費を計上できる点が、ほかの経費との大きな違いです。なお、土地は時間がたっても価値が減らないものとして扱われ、減価償却の対象になりません。

中古物件の場合は、残りの使用可能期間を見積もります。見積もりが難しいときは「簡便法」という計算式を使うのが一般的です。

構造(住宅用) 法定耐用年数 耐用年数をすべて経過した中古の場合
木造22年4年
軽量鉄骨(骨格材の厚さ3mm以下)19年3年
鉄骨(3mm超4mm以下)27年5年
重量鉄骨(4mm超)34年6年
鉄筋コンクリート(RC・SRC)47年9年

※簡便法:耐用年数をすべて経過した資産は「法定耐用年数×20%」、一部経過した資産は「(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%」。1年未満は切り捨て、2年未満は2年となります。

たとえば築20年の木造アパートなら、22−20+20×20%=6年です。

築古の木造物件が「節税向き」と言われるのは、この短い耐用年数で建物価格を一気に経費化できるからです。ただし、取得後に大規模な改修(取得価額の50%超)を行うと簡便法は使えない点にご注意ください。

損益通算のルールと2つの制限

不動産所得の赤字は、給与所得などと相殺(損益通算)できます。ただし、すべての赤字が対象になるわけではありません。

1つ目は、土地を取得するための借入金の利子です。赤字のうち、この利子に相当する部分は損益通算できません。建物部分の利子は対象になるため、借入金を土地と建物に分けて考える必要があります。

2つ目は、海外の中古建物です。令和3年分以後、簡便法などで耐用年数を計算した国外中古建物の償却費から生じた損失は、なかったものとみなされます。

かつて話題になった「海外の築古物件で大きく償却する」手法は、個人ではすでに使えません。

経費にできる費目の範囲

一般的に、固定資産税・都市計画税、管理委託料、修繕費、火災保険料や地震保険料、ローンの利息、税理士報酬などは必要経費になります。個人の場合、不動産取得税や登録免許税も経費として扱えます。

一方で、ローンの元金返済は経費になりません。また、購入時の仲介手数料は原則として取得価額に含め、建物部分は減価償却で少しずつ経費にしていきます。

「初年度に諸費用をすべて経費にできる」と説明されることがありますが、費目によって扱いが違うことは知っておきたいところです。

📝 情報を整理していて感じたこと

不動産会社の資料を見比べていると、「還付額」ばかりが大きく書かれ、ローン元金の返済や売却時の税金にはほとんど触れていないものが意外と多いと感じます。還付の数字を見るときは、毎月の手残りの現金がいくらになるのかを必ずセットで確認するようにしています。

申告方法と事業形態で変わる節税効果

申告方法と事業形態で変わる節税効果

青色申告特別控除は令和9年分から見直し

青色申告を選ぶと、所得から一定額を差し引ける「青色申告特別控除」を受けられます。

ただし、55万円・65万円の控除は、不動産所得が事業的規模であることが条件です。目安は「5棟10室」、つまり戸建てなら5棟以上、アパートなら10室以上とされています。区分マンション1〜2戸では、10万円の控除にとどまります。

令和8年度税制改正により、令和9年分以後の所得税から控除額が再編されます。住民税への反映は令和10年度分以後です。

令和9年分以後の区分 主な要件
75万円複式簿記+e-Taxでの期限内提出に加え、仕訳帳・総勘定元帳の優良な電子帳簿保存など
65万円複式簿記で記帳し、決算書類をe-Taxで期限内に提出(現行の55万円区分が移行)
10万円簡易簿記。前々年分の不動産所得等の収入が1,000万円を超える人は対象外に

紙の申告を続けている事業的規模の大家さんは、令和9年の記帳が始まる前に電子化の準備を進めておくと安心です。

資産管理法人による法人化の損益分岐点

個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる仕組みです。課税所得が900万円を超えると所得税率は33%になり、住民税と合わせると43%に達します。

一方、資本金1億円以下の中小法人は、年800万円以下の所得に15%の軽減税率が適用されます。こうした差から、課税所得800〜900万円程度が法人化を検討する目安として挙げられることが多いようです。

ただし、法人は赤字でも住民税の均等割(年7万円程度)がかかり、設立費用や税理士報酬も増えます。役員報酬にかかる社会保険料まで含めて試算しないと、かえって手残りが減ることもあります。

不動産収入を生活費の柱にするサイドFIREのような働き方を目指す場合も、法人化は規模が大きくなってから判断するのが現実的だと考えています。

相続税・贈与税で不動産の評価が下がる理由

相続税・贈与税で不動産の評価が下がる理由

路線価と固定資産税評価額による評価

相続税では、現金は額面どおりに評価されます。

これに対して、土地は国税庁が公表する路線価、建物は市区町村が決める固定資産税評価額をもとに評価します。どちらも実際の売買価格より低くなる傾向があるため、現金を不動産に換えると相続税の計算上の財産額が小さくなるのです。

貸家・貸家建付地の評価減

人に貸している建物や土地は、借り手の権利があるぶん、さらに評価が下がります。

貸家の評価額は「固定資産税評価額×(1−借家権割合30%×賃貸割合)」です。土地(貸家建付地)は「自用地評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」で計算します。借地権割合60%の地域で満室なら、土地の評価は18%下がる計算です。

小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)

賃貸アパートなどの敷地は、200㎡までの部分について評価額を50%減らせる特例があります。

ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付を始めた宅地は、原則として対象外です(3年を超えて一定規模の貸付事業を続けている場合などを除きます)。相続直前にアパートを建てても、この特例は使えない可能性が高いと言えます。

国税庁が示した「購入価額」と「通達評価額」の差

賃貸マンション:購入21億円 → 評価4.2億円
20%
小口化商品:購入3,000万円 → 評価480万円
16%
最高裁事案:購入13.8億円 → 評価3.3億円
24%

※購入価額を100%とした場合の通達評価額の割合。政府税制調査会(令和7年11月)の国税庁説明資料などで紹介された事例をもとに作成。

この大きな差が、今回の改正の出発点になりました。

令和8年度税制改正で相続対策はどう変わるのか

令和8年度税制改正で相続対策はどう変わるのか

令和7年12月19日に公表された令和8年度税制改正大綱には、「相続税等の財産評価の適正化」が盛り込まれました。

取得後5年以内の貸付用不動産は「通常の取引価額」で評価

被相続人などが課税時期前5年以内に、売買などの対価を伴う取引で取得または新築した一定の貸付用不動産は、課税時期の通常の取引価額で評価されることになります。

大綱の注書きでは、課税上の弊害がない限り、取得価額をもとに地価の変動などを考慮した価額の80%で評価できるとされています。実務家の視点からの整理は、大家さん専門税理士による「5年縛り」の解説も参考になります。

つまり、「亡くなる直前に借入で賃貸物件を買い、評価額を大きく下げる」対策は、原則として効果を失います。

5年以上前から持っている土地に、5年以内に賃貸建物を新築したケースも対象に含まれる点は、見落としやすいポイントです。

不動産小口化商品は取得時期を問わず時価評価

不動産特定共同事業契約(任意組合型など)や信託受益権にもとづく一定の小口化商品は、取得時期にかかわらず通常の取引価額で評価されます。

課税上の弊害がない限り、事業者が示す適正な処分価格や買取価格などで評価できるとされています。5年を過ぎても評価は下がらないため、相続税対策としての小口化商品は役割を終えつつあると言えそうです。

なお、少額から不動産に投資できる不動産クラウドファンディングは、運用利回りを目的とした商品として別に考えるのが自然です。

適用時期・経過措置と通達の公表状況

令和6年1月
居住用の区分マンションに新しい評価方法を適用
令和7年12月19日
令和8年度税制改正大綱で貸付用不動産・小口化商品の見直しを明記
令和8年中
財産評価基本通達の改正案→意見募集→公表の流れが見込まれる
令和9年1月1日以後
相続・遺贈・贈与で取得する財産から新ルールを適用

経過措置として、改正を通達に定める日までに、その日の5年前から所有している土地に新築した家屋(建築中のものを含む)は、新ルールの対象外とされています。

一方で、「一定の貸付用不動産」の具体的な範囲や計算方法は、通達に委ねられています。本記事の執筆時点では確定した通達の内容を確認できていないため、実際に対策を進める前に国税庁の公表内容を必ずご確認ください。

💭 改正の資料を読み込んで思うこと

大綱が出た直後、「年内に贈与すれば間に合うのでは」という声を多く見かけました。ただ、極端な駆け込みは総則6項で否認される余地が残ります。期限から逆算して慌てるより、物件の収益性と家族の意向を先に整理するほうが、結果的に後悔が少ないと感じています。

強まる不動産節税への規制の流れ

強まる不動産節税への規制の流れ

今回の改正は、突然出てきたものではありません。

令和4年4月19日の最高裁判決では、相続直前に借入で賃貸マンションなどを購入し、相続税をゼロと申告した事案で、財産評価基本通達6項(いわゆる総則6項)による鑑定評価が認められました。国税庁の資料によると、約13.8億円で購入した物件を約3.3億円と評価していた事例です。

その後、令和6年1月からは居住用の区分マンションに「区分所有補正率」を使った評価方法が導入されました。いわゆるタワマン節税の効果は、この時点で大きく縮小しています。

同じく令和6年1月以後の贈与からは、相続財産に足し戻す暦年贈与の期間が3年から7年へ段階的に延長されています。資産を分けて贈与する対策を考える際も、この7年ルールは前提として押さえておきたいところです。

売却時の税金とデッドクロスに注意

売却時の税金とデッドクロスに注意

減価償却で所得税を減らしても、その分は売却時に戻ってくる可能性があります。

39.63%
短期譲渡所得(所有5年以下)
20.315%
長期譲渡所得(所有5年超)

所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定します。償却を進めるほど帳簿上の取得費が減り、売却益が大きく計算される仕組みです。

最高55%の税率がかかる所得を減らし、約20%の譲渡所得に置き換える「税率差」と「課税の繰延べ」こそが、所得税の節税の本質と言えます。

もう一つ気をつけたいのがデッドクロスです。これは、減価償却費がローン元金の返済額を下回る状態を指します。償却期間が終わると経費が急に減り、帳簿上は黒字なのに手元の現金が足りない、という状況が起こりやすくなります。

効果が残る対策と薄れた手法の比較

手法 現在の評価 ポイント
減価償却+損益通算有効高税率の人ほど効果大。売却時の課税とセットで考える
青色申告(事業的規模)有効令和9年分からは電子化対応が鍵
長期保有の賃貸物件による相続対策有効取得から5年超なら従来の評価方法。早めの計画が前提
相続直前の賃貸物件購入効果減令和9年以後は5年ルールで取引価額ベースの評価に
不動産小口化商品効果減取得時期を問わず時価評価
タワマン節税・海外中古物件の償却効果減評価方法の見直し・損益通算の制限で縮小

どの手法でも共通するのは、節税は「収益が出る物件」の上に乗るおまけだという点です。

物件を選ぶときは、税効果より先に想定利回りの実態や空室リスク、出口の売却価格を確認することをおすすめします。節税額が毎月の赤字を上回らない物件は、そもそも投資として成り立ちません。

まとめ:節税は「収益の出る不動産」の副産物として考える

不動産投資の節税は、減価償却と損益通算による所得税・住民税の軽減、そして評価差を使った相続税の圧縮という2本柱で成り立ってきました。

このうち相続税の分野は、令和8年度税制改正で「直前の購入」や「小口化商品」による効果が大きく薄れます。一方で、長期保有の賃貸経営や青色申告の活用といった王道の対策は、いまも十分に意味があります。

大切なのは、税金の話を物件選びの出発点にしないことです。

相続まで見すえるなら、保険を使った資産の引き継ぎなど不動産以外の選択肢もあわせて比較し、通達の最終内容が公表されたタイミングで、税理士と一緒に計画を見直していきましょう。

よくある質問(FAQ)

年収がいくらくらいから節税効果を感じられますか?

一般的には、課税所得が900万円を超え、所得税率が33%になる層から効果が大きくなると言われます。給与収入でいえば年収1,200万円前後がひとつの目安です。税率が低い方は、節税よりも収益性を優先して判断するほうが無難です。

区分マンション1戸でも青色申告65万円の控除は受けられますか?

受けられません。55万円・65万円(令和9年分以後は65万円・75万円)の控除は事業的規模が条件で、目安は5棟10室です。区分マンション1〜2戸であれば、控除額は10万円となります。

赤字申告を続けると税務署から指摘されますか?

赤字そのものが問題になるわけではありません。ただ、土地部分の利子を損益通算に含めていたり、私的な支出を経費にしていたりすると、否認されることがあります。領収書と借入の内訳は必ず保管しておきましょう。

令和8年中に買った賃貸物件にも新ルールは影響しますか?

影響する可能性があります。新ルールは令和9年1月1日以後の相続・贈与に適用され、その時点で取得から5年以内であれば対象になり得ます。購入時期にかかわらず、取得日と取得価額の記録を残しておくことが大切です。

すでに持っている不動産小口化商品はどうすればよいですか?

令和9年以後の相続では、取得時期にかかわらず時価ベースで評価される見込みです。贈与で移す方法などが専門家の間で検討されていますが、総則6項のリスクや家族構成によって最適解は変わります。個別に税理士へ相談されることをおすすめします。

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